石橋幸(いしばしみゆき)さんの歌に出会ったのは、今年に入ってから。
「新宿ゴールデン街で、ロシアのうたを歌っている女性がいるよ」
何か不思議な、虫の知らせか星の巡り会いを感じて、すぐに聴きに行った。L字カウンターを囲むように作られた7つだけの客席。あとの3席にはガットギターとガットベース、そして石橋さん。きつきつの店内は薄明かりで、石橋さんは、まるでジプシーのような、20代のような、50代のような、80代のような風貌。ロシアへの愛情がこもった歌詞の説明と、ロシア語への愛情が詰まった発音が描き出す空気。
あっという間に虜になった。
「ロシアのうた」と聞くとちょっと腰がひけてしまうかもしれないが、「黒い瞳」「トロイカ」「百万本のバラ」など、誰もが一度は聴いたことがあるロシアの歌が、日本にはたくさんある。ロシア民謡を日本語でたくさん歌っていた時代だってある。ロシアの歌は、日本人の感性に、とっても肌が合うのだ。
加えて、石橋さんの歌い方は謡いに近く、言葉に密接に寄り添う。だから、ロシア語がアイコンとしてのロシア語ではなく、活きたものとしてロシアの方々にも評価されているのではないだろうか。
実は石橋さん、去年モスクワのクレムリンで行われた歌謡祭「シャンソン・ゴーダ(シャンソン・オブ・ザ・イヤー)」に日本人として初めて出演し、特別賞を受賞、毎年ロシアでのコンサートを行うなど、まさに本場といえるロシアで、大変評価されている。
今回行ったのは、年1度開催しているという、紀伊國屋ホールでのコンサート。
駆けつけた時間は、ちょうど、1部と2部の狭間だった。沢山集まった人々の穏やかな、何かをかみしめるような顔を眺めながら、席に着いた。
バンドメンバーは、渋谷毅(p)、翠川敬基(cello)、向島ゆり子(vln)、石塚俊明(per)、小沢あき(g)という豪華布陣。なんてことなくサラッと入る、電子ピアノのイントロの音色の豊かさに驚いたり、ビオラが奏でるメロディラインの、その音域故の高音の切なさに腹の底が疼いて、奥歯を噛みしめたり。
今回のコンサート全体のテーマ、ワジム・コージン。この、1903年生まれのソビエト草創期の国民的歌手の曲が特集された1部を聴きそびれてしまったわけだが、母方の出自と言われているロシアジプシーに伝わる歌を堪能出来た。期待にそぐわぬ、相変わらずの、腸に響くライブだった。そして、今回の石橋さんのтебяという発音で、初めてyouという単語にグッと来た。なんて甘いんだろう、ロシア語の「あなたを」は!
バンド編成でライブを行っている西荻窪「音や金時」、超至近距離で濃密なアコースティックを浴びることができる新宿ゴールデン街「ガルガンチュア」などでライブがあるので、是非、一度ならず、足を運んで欲しい。
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☆石橋幸~ロシア・シャンソンの魂を語る~
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タイトルの「カノレコ」は、「かのうレコメンド」の略でつけてみました。行った舞台やライブやCDなどのオススメを、週に1度くらい書いていきたいと思っております。今回は記念すべき第1回目でございました。2回目もネタは決めたのですがcoming soon!ということで、今日はこれにて。